イギリス演劇留学ノート

イギリスの大学・大学院で4年間演劇を勉強した備忘録

現代演劇 (Modern Theatre) ① 自然主義

 現代演劇 (Modern Theatre) 

こちらは大学の演劇学科で必修だった科目です(主に座学)。

現代演劇とはなんぞや?っていう授業ですね。

 

まず現代演劇の大きな側面として、「社会・政治に問題を呈する」というものがあります。

例えば差別による悲劇を見せたり、現在の政治を皮肉ったり、あまり知られていない病気を取り上げたり。そうして観客に「本当に今のままでいいのだろうか?」という疑問を抱かせるのです。

ではなぜ現代演劇がそんな面を持つようになったのか? という歴史を学んでいきます。

大まかな目次(?)はこんな感じ

  1. 自然主義(Naturalism)の台頭
  2. 現代演劇に多大な影響を与えた4人、その① スタニスラフスキー
  3. その② メイエルホリド
  4. その③ ブレヒト
  5. その④ アルトー
  6. 第二次大戦後の凄い人、グロトフスキー
  7. ポストモダニズム
  8. 言語を超えて、ウィルソン
  9. ダンス、フィジカルシアター
  10. パフォーマンスアート

今回はまずその一番初め、自然主義(Naturalism)の台頭について書いていきたいと思います。

 

自然主義とは。

ものすごーくざっくり言うと、

「お綺麗な部分だけじゃない、裏表全部ひっくるめた、ありのままの人間の姿を見つめよう」

というものです。

それまでの"人間"についての考え方は

宗教に基づいてたり(肉体に意味はなく魂こそに価値がある、とか)

身分に基づいてたり(尊い血を引いている貴族は偉い、とか)

単によく分からなかったり(こんな悪行を犯すなんて何か変なものに取り憑かれたんだ、とか)

でした。

けれど科学技術の進歩や産業革命によって人々の意識はどんどん変わっていきました。

科学の面では特にこちら御三方

  • ダーウィン ご存知進化論(生物は神のみ技ではなく、進化によって形作られてきたことを述べた)
  • フロイト 精神分析の始祖(心という一見非論理的なものに科学的分析を試みた)
  • マルクス 社会主義の創設者(それまでの社会が唯一でも万能でもないことを示した)

産業革命では、農業や職人による小規模な生産から、機械を用いた大量生産がメインとなっていきました。そこで特に変化があったのが中流階級であった商人たちです。

以前は身分のせいで社会への影響力を持たなかった彼らは、産業革命を経てとにかくお金持ちになり、むしろ社会を動かすメイン層へと成り上がっていくのです。

それがいわゆるブルジョア

この「貴族じゃないのに力を持った人々」=ブルジョアが増えたことも、貴族第一主義だった既存の価値観に対する人々の違和感を強めることとなりました。

こうした流れから

人間はそんな理想的なもんでもない → 芸術でも生の人間を表現しよう

となっていったわけです。

 

さて、そんな自然主義を演劇に取り入れるとどのようものになったでしょうか?

自然主義演劇の特徴は以下の5点になります。

(これは自然主義演劇は「こうあるべき」というわけではなく、あくまで自然主義演劇とされる作品を分析した結果こういう特徴があるよ、というものです)

  • その作品当時の「現代」を描いたものであること
  • その作者の「当地」が舞台であること(例:チェーホフ作品の舞台はロシア)
  • 日常的な会話文であること
  • 登場人物が階級などで限定されないこと
  • 超自然的な要素(幽霊やお告げなど)によって物語が動かないこと

この自然主義演劇を代表する劇作家が『かもめ』『桜の園』などで有名なチェーホフや『人形の家』でセンセーションを巻き起こしたイプセンになります。

 

また自然主義を初めて著作で言及したとされるゾラが「演劇はこうあるべき」と言った大まか内容はこちら↓

⭕️科学的分析に根ざした人間、適切で真に迫った表現 

❌抽象的な人間(現実離れした人間)、無意味に豪華なファンタジー

特に話し方。やたら強調したり飾り立てたりしない、普段自分たちが話している話し方でのセリフにこそ価値がある

またゾラは「舞台上の全てのものには意味がなければならない」とも述べています

衣装もセットも話し方も物語の進み方自体にも、「なぜそうなるのか」の理由がなければならない(なんとなく、ではダメ)

→事象を学び、現実をより詳細に分析することで、リアリティのある「環境」を作り出す

→舞台上の登場人物にも真実が宿る!

  

21世紀から見ると「いや、そんなん普通のことじゃん」ってなりますが、当時は本当に普通のことではなかった…

自然主義以前の演劇は、前述した非科学的な人間観に基づくメロドラマ(愛し合う2人、立ちはだかる障害、典型的な登場人物たち、つまるところベタで出来ている舞台)が主流だったのです。

そんなメロドラマなサロン劇から自然主義演劇が完成されていく変化は、ざっくり見るとこんな感じ↓

18世紀から19世紀初頭 リアルさを舞台上で表現することが重視される、と言いつつ…

舞台セットについては、

  • 絵画のような美しい背景
  • リアルさ、現実感を求めた外見(外側だけ、理由づけなどはあんまり考えてない)
  • アンティークが好まれる

物語に関しては、

  • 登場人物がブルジョアの場合→センチメンタルな悲喜劇
  • 登場人物が下層階級の場合→メロドラマ

という、まだまだなんとなくなベタが多い状態

19世紀中頃から後期 メロドラマの中でのリアルな反応/効果が追求される

物語自体は未だファンタジー(ご都合主義なハッピーエンドや詩的な正義観など)

けどよりリアルな描写や演出に重点が置かれる

た だ し その表現はあくまで技術的なものであり、表層的なものに過ぎなかった

 

そんなところで! 登場してくるのが!! 演劇やる人なら必ず一度は名前を聞くあのお方

スタニスラフスキー!!

彼が編み出した演技へのアプローチにより、役者陣は自然主義が目指す「科学的分析に基づいた登場人物」へと近づいていくのです。

 

この続きは 現代演劇(Modern Theatre)② スタニスラフスキーで!